あめくんの病気について vol.3 「心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)」

☆過去ログ☆
vol.1「卵円孔開存症と動脈管開存症」
vol.2「門脈体循環シャント」
--------------
ご報告が遅くなってしまい、大変申し訳ございません。

あめくんの心臓ですが、最終的に「心内膜床欠損症(最近では房室中隔欠損症と呼ばれています)」と診断されました。

これは、vol.1でお話したものとは全く異なる病気です。
なので、新たにお話をしようと思います。

(なお、私の専門分野はヒトなので、イヌでは異なる部分があるかもしれません。間違いがありましたらご指摘願います。)

--------------
[心臓の解剖と発生]

正常循環については、vol.1でお話しをしたので、ご覧下さい。

この時には模式図を提示して、コメントで
『実際は、心臓は4つの部屋に分かれています。
この一連の血液の流れは、心臓の各部屋を使用しながら一方通行になっています。』
と述べただけで、解剖については触れませんでした。

以下、今回は避けて通れない解剖の解説です。

心臓は、上2部屋+下2部屋=合計4部屋に分かれています。
c0301772_057284.jpg
上の2部屋は「心房」、
下の2部屋は「心室」といいます。

それぞれの部屋は、左右をつけて
「右心房」「右心室」
「左心房」「左心室」 と呼びます。




(図:日本心臓財団HPより転載)
血液の流れる方向は
(体)→「右心房」→「右心室」→(肺)→「左心房」→「左心室」→(体)
の一方通行になっています。
また、それぞれの入り口には弁(弁膜)がついていて、逆流を防いでいます。

なお、図では平面的にしか描けませんが、実際には血管と心房は(画面向かって)前後方向に立体的に配置しています。
左右の心房を隔てるものは血管ではなく、心臓の中にある壁です。

左右の心房の間にある壁が「心房中隔」、
左右の心室の間にある壁が「心室中隔」です。

胎児に心臓が発生したばかりの時は、心臓はまだ左右には分かれていません。
発生の過程で、左右を隔てる壁ができます。
c0301772_054982.jpg

最初に、心臓の中心部に「心内膜床」という隔壁の中心部ができます。
その心内膜床に向かって、上下から中隔が伸びてきて、心房/心室中隔になります。

(厳密にはもっと複雑ですけど…。詳細は省きます。
この複雑な過程の途中で、心房中隔に穴ができます。それが卵円孔です。)

--------------
[心内膜床欠損症について]

読んで字のごとく、心内膜床の一部が欠損した病気です。
つまり、心臓のど真ん中の隔壁がありません

その欠損具合により、2種類のタイプに分かれます。

①不完全型:心室中隔は欠損してない。心房中隔欠損と、弁膜の異常を伴う。
②完全型:上記に加えて心室中隔欠損も伴う。
c0301772_0545425.jpg

つまり、左右の心臓の間に穴が開いているだけでなく、心臓の上下を隔てる弁膜にも異常を起こします。

その結果、本来は一方向に流れるはずの血液が、様々な所で逆流をします。
c0301772_0582838.gif

(図:国立成育医療センターHPより転載)

結果として、
①肺に流れる血液が増えます。
②肺は血で充満し、
③逆に体は血が足りない=酸欠状態となります。

肺に流れ込む血液の量は、様々な場所での逆流があることで、動脈管開存症や卵円孔開存症よりもさらに増えます。
心内膜床欠損症の中でも、不完全型より完全型の方が逆流量が多くなるため、心臓や肺にかかる負担は大きくなります。

つまり、vol.1の最後 [今後起こりうる事]で述べた、Eizenmenger化がより起こりやすくなるのです。
それ故に、卵円孔開存症や動脈管開存症よりも予後は悪く、完全型の場合には極めて悪いと言われています。

--------------
[治療方法]

不完全型の場合には、体がある程度大きくなったら、中隔の穴を塞ぐパッチをあて、弁膜を縫い合わせる手術を行います。

完全型の場合には、体が大きくなるまで待つことができません
心臓への負担をなるべく早く減らすために、早期の手術が必要になります。
また、心臓の負担を減らすためのお薬(心不全の治療薬)の内服が必要になります。

・完全型の場合の手術方法
①姑息的に、肺動脈が広がらないようにする手術(絞扼術)を行い、肺高血圧症へ進行するのをできるだけ予防します。
もしくは、
②根治的手術(穴にパッチを当てて、弁膜を修復する)を最初から行います。しかし、弁膜の修復は後に再度必要になることがあります(人工弁への置換)。

どんな手術がよいのかは、個々の体の状態をみて決めることになります。
なお前述した通り、Eizenmenger化してしまった場合には、手術を行うことはできません。

-------------

あめくんの心臓は、どうやら残念ながら、完全型の心内膜床欠損症のようです。
すでに心臓が大きくなってきているとの事ですので、もしかしたらもうEizenmenger化してしまっているかもしれません…。

今はただ、病状が進行していないことを祈るよりありません。
あめくんが元気になるその日が、一日も早く訪れることを願うばかりです。


Matty
[PR]

by amekunkun | 2013-06-25 01:07 | あめくんの病気

あめくんの病気について vol.2 「門脈体循環シャント」

先日Tokuさんより報告のあった、あめくんの抱える病気…。

そのうちの一つ、現在最もあめくんの体に悪影響を及ぼしていると思われる「門脈体循環シャント」について、お話をしようと思います。

(なお、私の専門分野はヒトなので、イヌでは異なる部分があるかもしれません。間違いがありましたらご指摘願います。)

----------------
[肝臓の役割]

肝臓は、右の上腹部に位置するとても大きな臓器です。
大きいだけあって、その機能も多彩です。

おおまかに挙げると、

①食べ物から吸収した栄養分を代謝して、一部を蓄える。
②体にとって有害な物を代謝して、解毒する
③消化液の一種(胆汁)を作り、腸管に分泌する
④体に必要な様々な物質を合成し、いらなくなったものを分解する

といった感じです。

肝臓の機能を人工的に作ろうとすると、東京ドーム何個分の設備になるんだったか…数は忘れましたが、とにかくそのくらいの機械が必要になるほど、たくさんの機能を担っている、大切な臓器です。

しかし、肝臓自体は痛くも痒くもない臓器なので、その不調が目に見えにくいという困った一面を持っています。
肝臓由来で体に不調が出た時、すでに肝臓には相当なダメージがあることが多く、それ故に「沈黙の臓器」と呼ばれます。

----------------
[肝臓と血管]
肝臓に出入りする主要な血管は、3本です。
c0301772_1835118.jpg
肝動脈:酸素が多く含まれる血液を肝臓に運ぶ。
門脈:消化管などの内臓から集まった血液を肝臓に運ぶ。

※なお、肝臓に入る血液のうち、門脈から入るものが70~80%を占めます。

肝静脈:肝臓で作られた物や、肝臓で解毒された物を、血液に乗せて運び出し、体循環(心臓に戻り、体全体をめぐる血液の流れ)に注ぐ。

肝動脈と門脈は、肝臓の中に入ると細かく枝分かれします。
枝分かれした先には毛細血管があり、そこで肝臓の細胞と、色々な物質のやり取りをします。
やり取りを終えた血液は、肝静脈に集められ、体に運ばれます。

----------------
[門脈体循環シャントとは]

シャントとは、本来くっついていない物がくっついてしまっている事を表す言葉です。

つまり、門脈と体循環がくっついてしまっている病気です。

そのくっつき方には色々なパターンがあります。
(A) 胎児循環の一つである静脈管の開存
(B) 異常な血管(静脈管ではない)があり、それが肝静脈や体循環に注いでいる
(C) 門脈が狭窄や閉塞をしていて、体にもともとあるバイパス路が働いている
(D) 肝臓の中で枝分かれしていくはずの門脈(肝内門脈)が欠損している

(それぞれの解説をしていると、それだけで膨大な量になってしまうので割愛します。申し訳ありません。興味のある方はググってみてください。)

この病気があると、門脈血が肝臓に注がれません。
すると、様々な問題が起こります。

(1) 消化管から吸収した栄養を代謝できない
(2) そのままでは毒となる物質が代謝できない(毒が体にめぐる)。
(3) 消化管からは、栄養だけでなく細菌も門脈血に入り込む可能性があるが、それを肝臓で捕らえることができない(細菌が体にめぐる)。
(4) 肝臓の血流が少なくなるので、肝臓そのものが育っていかない

----------------
[あめくんの病態]

あめくんは上記A~Dのうち、B「異常な血管があり、それが肝静脈(ひいては体循環)に注いでいる」状態にあります。

しかも、その異常な血管が、肝臓の中に存在しています
c0301772_18351945.jpg


門脈血のすべてが肝静脈に流れ出てしまっている訳ではないと思いますが、相当の量が流れ出てしまっているとの事です。

あめくんの体が小さいこと、痩せていることは、この病気が主な原因であると考えてよいでしょう。

----------------
[治療方法]

肝臓の外に異常血管がある場合、開腹手術でその血管を縛ってしまえば治ります。

しかし、あめくんのように肝臓の中に異常な血管がある場合、その血管を外から縛ることができません。
異常な血管の中に詰め物(金属のコイル)をする治療が行われます。


あめくんの場合、詰めるべき異常血管が「太くて短い」のだそうです。


太ければ、コイルがうまく詰まらずに肝静脈(最終的には心臓)に飛んでいってしまう可能性が高くなります。
(それを予防するために、静脈側にフィルターを入れておくような予防策が必要になります。)

短ければ、異常血管の手前にある正常な血管まで潰してしまう可能性があります。

これが「手術が難しい」と判断された理由です。

なお、この手術はカテーテルを用いた治療になります。

首、鎖骨の下、足の付け根にある太い血管からボールペンの芯程度の太さの管を入れ、血管の中を通って肝臓に到達します。
(ちなみに人間では、心筋梗塞や脳動脈瘤でカテーテル治療がよく行われていますので、カテーテル治療についてご存知の方もいるかと思います。)

合併症としては、コイルの脱落、感染、出血(詰めている血管が破れる、血管刺入部の出血など)、門脈圧亢進症(門脈血が行き場を失い、血管の中の圧が高くなる)、麻酔やその他の薬物による副作用などが起こりえます。

----------------
[治療をしない場合、今後予想される事]

栄養が体に取り込めないので、ますます痩せていきます

毒物や、分解されなかった物質が体に回ることで、様々な事が起こります
(代表例)
・肝性脳症:代謝されなかったアンモニアなどが原因で、脳に悪影響を及ぼし、けいれんを起こしたり、昏睡状態になります。ちょっと特殊な点滴をすれば大抵治まるのですが、治まらなければ死に至る可能性もあります。
・肝肺症候群、肺高血圧症:血管を収縮/拡張させる物質が分解されずに肺に行ってしまい、呼吸困難を起こします。これも、悪化すれば死に至ります。


この状態に進んでしまうと、あめくん自身、とても苦しくて辛い毎日を送らなくてはならなくなります。
もちろん、それを見守る里親さんも、とても辛い思いをするでしょう…。


その他、肝腫瘍ができたり、細菌が体をめぐってしまったり(敗血症)、他にも様々な事が起こり得ます。

----------------
[あめくんチームの選択]

この数日間、本当にたくさん悩みました…。
また、皆様からのご意見を多数いただくことができて、本当に励みになりました。ありがとうございました。
そして、チームの皆で心を決めました。


あめくんに、手術を受けてもらうことにします。


手術をして、もしも術中死したら、この先ずっと後悔することでしょう。

しかし、手術という選択をしないで、そのまま病気が進行し、苦しみもがき続けるあめくんを見守る段階になった時、「どうして手術を選ばなかったのだろう」と間違いなく後悔することでしょう。

何より私達は、あめくんが元気になる可能性がゼロでないならば、それを諦めることが出来ません。


なお、手術を選んだ理由は、開腹ではなくカテーテル治療が適応だから、というのもあります。
体への侵襲は、開腹手術に比べたら格段に低いです。
手術時間(麻酔時間)も、短くて済みます。
もしコイルがうまく詰められなさそうな場合、コイルを切り離す前であれば、引き返してくるという選択もできます。
静脈に入れるフィルターも、テンポラリーフィルター(一時的に入れ、後に抜去するもの)を使用すると思うので、体内に残さずに済みます。

以上のことから、手術(危険な時には無理せずに引き返してくる)を選びました。

そして、TokuさんからB病院へ、私達の出した答えを伝えていただきました。
現在、もう一度大学病院へ行く日程を調整中です。
詳細が決まりましたら、追ってブログにてご報告致します。


なお、心臓の病気についてですが、最終的な診断名はまだ出ておりません。
診断がつきましたら、改めてご報告致します。


Matty
[PR]

by amekunkun | 2013-06-11 18:45 | あめくんの病気

あめくんの病気について vol.1「卵円孔開存症と動脈管開存症」

あめくんは、最初の病院で「動脈管開存症」、次の病院では「卵円孔開存症」と診断されました。

それらは一体どんな病気なのか、このページでお話をしようと思います。
(※私は獣医ではありませんので、犬では異なる部分があるかもしれません。その場合にはご指摘願います。)

心血管の解剖は立体的で複雑です。
なかなか理解するのは難しいとは思いますが、この長文にしばしご辛抱いただき、少しでもご理解いただければ幸いです。

------------------

【正常循環】

私達の体は、酸素をエネルギー源として動いています。

酸素はエネルギーとして使用されると、二酸化炭素という燃えカスに変わります。
酸素を体中に運び、二酸化炭素を回収するのは、血液の役目です。
二酸化炭素は、肺において酸素と交換されます。
つまり、肺に入る前の血液は最も酸欠状態の血液肺から出た直後の血は最も酸素が豊富な血液になります。
なお、血液を全身に送り出すポンプの役割を担うのが、心臓です。

c0301772_12154189.jpg
簡略図で表すと

①心臓から出た血液は、全身に酸素を届け、

②二酸化炭素を回収して心臓に戻ります。

③次に、肺をまわって、二酸化炭素を体の外へ出し、酸素を取り込みます。

④肺を出た血液は再度心臓に戻り、全身へと送り出されます。


(実際は、心臓は4つの部屋に分かれています。
この一連の血液の流れは、心臓の各部屋を使用しながら一方通行になっています。)


【胎児循環】

赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいる間、羊水に浸かっていますので、肺から酸素を取り込むがことができません。
そんな赤ちゃんに酸素を届けているのが、胎盤です。

胎盤を通じて入ってくる酸素の量は、決して多くはありません。
その大切な酸素を無駄なく体中に運べるよう、胎児の体はそれに順応した形になっています。

c0301772_12161369.jpg
①胎盤は、全身から心臓に血液が戻る途中に位置しています。
(※厳密には若干異なるのですが、便宜的にそう説明させてください。)
 胎盤から酸素を取り込んだ血液は、心臓に戻ります。

②次に、肺に行ってしまうと、せっかくの酸素が一部無駄になります。
そこで、肺を通らないように血液をバイパスするのが、卵円孔と動脈管です


卵円孔:心臓の中にあるバイパス路
(心臓の部屋と部屋の間に穴が開いている)

動脈管:心臓の外にあるバイパス路(血管)

③卵円孔を通り抜けた血液は、心臓から体中に送り出されます。

④動脈管を通り抜けた血液は、心臓から送り出された血液と合流して体中に向かいます。

これが、胎児循環です。

出生すると当然、胎盤から酸素を受け取れなくなります。
出生してすぐに「オギャー」と泣く事で(犬も「オギャー」なのか?)、肺に一気に空気が入ります。
そうすると、肺に血液が流れるようになり、最初にお話した正常循環へと移行します。
卵円孔と動脈管は、その役目を終え、通常は出生後数日で自然に閉鎖します。


【卵円孔開存症と動脈管開存症】

ここまできたところで、やっと病気のお話に移ります。

胎児循環において重要な役割を担っていた、卵円孔と動脈管。
これが生後に閉鎖することなく残ってしまっているのが、卵円孔開存症と動脈管開存症です

心臓から全身に向かう血液の圧力と、肺に向かう血液の圧力を比べると、全身に向かう血液の方が圧倒的に高圧です。

c0301772_1216377.jpg
①卵円孔や動脈管が残ったままだと、圧の高い方から低い方へ、つまり胎児期とは逆方向に血液が流れます。
その結果、全身に向かうはずの血液の何割かが肺に流れ込みます。

②肺は血で充満し、

③逆に体は血が足りない=酸欠状態となります。


これが、今のあめくんの体に起こっていることです。
ちょっとはしゃぐと座り込んでしまうのは、体が血液不足の酸欠状態で苦しいからなのでしょう…。


【今後起こりうる事】

肺に血がたくさん入り続けていると、肺に向かう血管が徐々に詰まってきます。
そうすると「肺高血圧」の状態となり、いずれは体の血圧よりも高圧になってしまいます。

c0301772_1216575.jpg
①この状態になると、卵円孔と動脈管を流れる血液の向きがまた逆方向、つまり、胎児期と同じ方向になります。
この状態を「Eizenmenger症候群」と言います。

②肺に血液が流れにくくなるので、酸素が血液になかなか取り込まれません。

③体をめぐる血液は、酸素が不足している血液となり、チアノーゼが出現します。


心臓に大きな負担がかかり続けるため、心不全や不整脈が出現します。
この状態になると、もう手術をすることはできません。
手術をしてしまうと、肺高血圧がさらに悪化してしまうからです。
お薬(血管を広げる薬や、心不全、不整脈の薬)や、心肺同時移植(動物でもやるのかしら?)が必要となります。

その他としては、動脈管に動脈瘤ができたり、感染症(感染性心内膜炎)や脳梗塞(脳塞栓症)を起こす危険があります。

Eizenmenger化してしまう前に、無事に手術治療をしてあげることができれば、今後元気に生活できる可能性が高くなります。
従って、一日も早い診断と治療が望まれます。


----------------

本日から、あめくんは検査入院をします。
一日も早く、元気にはしゃぎ回ることができるよう、皆様も一緒に祈っていてください!
よろしくお願い致します。

あめくん、いつも皆がついてるよ。
ちょっとだけ頑張ってこようね!


Matty
[PR]

by amekunkun | 2013-05-20 12:21 | あめくんの病気